万博とIRをセットで目指す大阪の夢洲構想。秋の衆院解散でIR実施法は一年先まで持ち越される可能性もあり、また2025年万博の開催地が決定するのも来年11月となる。何としても2024年内にIRをオープンしたい大阪にとって、IR実施法案のタイムリミットは来年内であろう。
大阪万博誘致、懸命の訴え パリでプレゼン、カジノが鍵
政府は15日、2025年国際博覧会の大阪誘致をめざし、パリで開かれた博覧会国際事務局(BIE)の総会で大阪万博の具体的な構想を提案した。関西に留学経験のあるルワンダ出身の男性らをプレゼンターに起用し、大阪の魅力をアピール。投票に向けて途上国の支持拡大も狙った。
25年万博は日本のほか、フランスやロシア、アゼルバイジャンが立候補し、9月末までにBIEに万博構想の提案書を提出した。総会では各国が提案書に沿って説明し、加盟国の政府代表に支持を訴えた。
日本が提案した万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。大阪市湾岸部の人工島・夢洲(ゆめしま)を会場に、各国のパビリオンや水上ホテルなどを配置し、仮想現実(VR)などの技術を使った万博の構想を、動画も交えて紹介した。
プレゼンターの一人は、ルワンダ出身のジョアキム・ルタイシレさん(35)。ソフトウェアの研究で神戸の大学に留学していた経験を踏まえ、「大阪、関西は個々の文化を尊重してくれる。(万博では)最高のおもてなしが実現するでしょう」と呼びかけた。
今回は2回目のプレゼンで、来年初頭にBIE調査団の現地視察があり、3回目のプレゼンを経て、来年11月に加盟約170カ国の投票で開催地が決まる。
パリの博覧会国際事務局の総会で政府が提案した万博の舞台は、大阪市湾岸部の人工島・夢洲(ゆめしま)。大阪市がかつて招致に敗れた2008年夏季五輪の選手村の予定地で、「負の遺産」となっている場所だ。
1970年の大阪万博で「人類の進歩と調和」だったテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。155ヘクタールの敷地に各国のパビリオンや水上ホテルなどを配置する。25年5月から半年間開催し、約2800万人の来場者を見込む。安倍晋三首相はビデオメッセージで「一緒に新しい未来をデザインしよう」と訴えた。
政府は4月に立候補を閣議了解し、誘致に力を入れる。菅義偉官房長官は15日の記者会見で「観光客が増大し、地域経済が活性化する起爆剤になる。誘致を成功させるため、オールジャパンの態勢で全力で取り組んでいる」と述べた。
ただ、開催に伴う都市開発の費用は巨額だ。会場整備費は1250億円で、国、大阪府と大阪市、経済界が3分の1ずつ負担する。来場者の交通手段として、夢洲までの市営地下鉄延伸や橋の拡幅など、730億円以上の関連事業費も見込まれる。その費用は府と市が負担する方向だ。
そこで期待されるのがカジノを含むIRの誘致だ。大阪府知事だった橋下徹氏が関西の成長戦略と位置づけ、旗を振ってきた。府と大阪市は万博と同じ夢洲での開業をめざす。
昨年末の臨時国会では、1年以内をめどにIRの法整備を政府に求める議員立法の「カジノ解禁法」が自民党や日本維新の会の賛成で成立。開業は23年を想定しており、誘致が実現すれば、IR事業者が「1兆円規模」とも掲げる投資を25年の万博のインフラ整備にも使えるとの皮算用だ。府幹部は「IRなしで万博なら交通網の整備にも影響が出かねない。そんな万博はあり得ない」と言い切る。(佐藤恵子=パリ、大久保貴裕)
綱渡りの計画
ただ、IRとのセットの誘致戦略は綱渡りだ。
政府は当初、今秋の臨時国会でIR実施法案の成立をめざした。法案審議時に国会が開くことが通例となっている公聴会も、法案提出前に政府が全国9カ所で開催。「国民的な議論を尽くす」(安倍晋三首相)ための下地づくりを異例の急ピッチで進めてきた。
しかし、安倍晋三首相が9月に衆院を解散。提出は来年1月に召集予定の通常国会に先送りされた。審議入りは春以降の見通しだ。「ギャンブル依存症対策が不十分」との懸念もあり、官邸幹部は「広く理解を得るには通常国会だけの審議では厳しい」と明かす。
万博の開催国が決まるのは来年11月。IR実施法が通常国会で通ったとしても、事業者選定に時間がかかり、国がIR予定地を決めるのはその後になる。
その場合に懸念されるのが資金集めだ。万博の会場整備費は民間も約400億円を負担する計画だが、調達のめどは立っていない。
官民でつくる万博の誘致委員会の会長代行で、関西経済連合会会長の松本正義・住友電気工業会長は「頭の痛い問題だ」とこぼす。関西には、05年の愛知万博を支えたトヨタ自動車グループのような資金力のある企業が少ないからだ。「今から構想を練って、資金集めのめどをつけないと」と焦りを募らせる。
IR誘致に失敗すれば、企業が万博への資金提供を渋る恐れがある。半年で終わる万博だけなら、開催後の経済活性化は期待できない。ある銀行幹部は「投資の見返りがなければ単なる寄付になる。株主にも説明がつかない」と指摘する。(伊沢友之、笠井哲也)